「山沿い」vs「海沿い」どっちがおトク?
「山沿い」vs「海沿い」どっちがおトク?
どんなに文明が進化し、身の回りに機械が増えたとしても、人間が自然界のなかのひとつの生き物であることに変わりはありません。壮大な山や広大な海に惹かれ、四季折々にみせる自然の姿に魅せられるのも当然の成り行きでしょう。
都会の喧騒を離れ、豊かな自然のなかで暮らしたいと願う人もきっと多いだろうと思いますが、だからといって仕事を辞めたり、リゾート地に定住したりすることは簡単ではありません。そこで今回は、都会への通勤圏にある「山沿いの街」「海沿いの街」を念頭に、それぞれの違いを考えてみることにします。
「山沿いの街」や「海沿いの街」に暮らしても、平日は会社との往復だけ、休日は家でゴロゴロでは意味がありません。家族の普段の生活に加え、自分が休日に何をしたいのかによって街選びが大きく変わるでしょう。
ただ散歩をするだけでもそれなりに楽しみはありますが、積極的にアウトドアを楽しみたいものです。山沿いであれば、トレッキング(山歩き)やハイキング、軽登山、森林浴、野鳥観察、カヌー、渓流釣りなどがすぐに思い浮かびますが、陶芸や星空観察の趣味のために移り住む人もいるようです。一方、海沿いであればサーフィンやボディボード、ダイビング、ヨットなどのマリンスポーツや海釣り、船釣りなどが挙げられます。
これらは都会に暮らしていても楽しむことができるものの、夫婦で、あるいは子どもと一緒になって日常的に楽しもうと思えば、やはり山沿いや海沿いに暮らすほうが断然有利です。
また、山沿いか海沿いかによって食生活の変化も。海沿いであれば新鮮な海産物が豊富なことも多く、一般客向けの直売所を併設した市場などが近くにあれば、その楽しみも広がります。港が近いエリアなどであれば、その日に獲れたばかりの魚や、お店の大将が自ら釣ってきた魚を出してくれるようなお寿司屋さんもあります。
一方で、「清々しい空気のなかで暮らしたい」「清流の近くに住みたい」「川のせせらぎを聞きながら眠りたい」などの希望は、山沿いでなければなかなか実現できません。本格的に家庭菜園や園芸に取り組みたいという場合も山沿いのほうが有利です。
もちろん山沿いにも平坦地があったり、海沿いにも高台やがけ、坂道があったりしますが、全体的にみれば山沿いはアップダウンが多く、海沿いはフラットだといえるでしょう。そのため山沿いでは、街の中心部に公共施設や商業施設などが集中する傾向にあり、中心から少し離れると民家ばかり、あるいはその民家も点在するような地域が少なくありません。毎日の生活で長い坂の上り下りが続くと、体力的にきつい場合や悪天候時に難儀する場合も考えられます。
山沿いでも中心市街地に住めば車は不要なこともあるでしょうが、交通網が1本の鉄道だけというケースもあるため、日常生活において車の必要性は高いといえます。
一方、海沿いでは商業施設が広範囲に立地し日常の生活圏も広くなりがちですが、平坦なエリア内であれば徒歩や自転車での行動も楽です。山沿いに比べれば鉄道やバスによる交通網が充実しているケースも多いでしょう。
山沿いの街でも有名な観光スポットがあれば人が集まり、商業施設やレストランも多く立地します。しかし、集客要因がない街の場合には外部からの流入が少なく、商業施設なども圏域内に住む人の需要を満たす最小限のものにとどまりがちです。
それに対して海沿いの街は、とりたてて有名な観光スポットがなくても、とくに夏場は若者を中心に人が多く集まりやすくなっています。街全体が観光地化あるいはブランド化しているケースもあるでしょう。そのため商業施設なども多くなるほか、おしゃれなレストランが目立つようにもなります。
山沿いでも海沿いでも、それぞれの気候を考えた住まいが必要です。もちろん「山沿い」や「海沿い」といっても、日本の南か北かで大きく異なりますが、平均的に考えれば山沿いは冬の冷え込みが厳しく、海沿いは夏の暑さが厳しくなりがちです。
山沿いの住まいでは、真冬の明け方などに新聞やテレビでみる最低気温よりも寒く感じられることがあります。寒さ対策、雪対策、さらに北風対策を念頭において、北向きの玄関を避けることや、トイレや浴室を北側に置かないことも考えるべきです。また、がけ崩れなど周辺の地盤に注意しなければならないケースもあります。
海沿いでは、初夏には心地よかった潮風が、真夏にはじとじとした流れになることも。暑さ対策や風通しを念頭においた住まいが求められます。また、台風による暴風などを考えて南西向きの玄関を避ける場合もあります。塩分によるサビを防ぐために、鉄部の適切な処理や手入れが必要になることもあるでしょう。また、海沿いでは近い将来の発生が懸念されている大地震の際に、津波の被害を受けるリスクがあることを忘れてはいけません。
日本では海沿いや河口付近の平野部を中心に発達してきた歴史がありますから、海沿いのほうが住宅地として整備されているところが多くなっています。そのため大都市の中心部から同じくらいの距離圏にある住宅の価格を比較すると、山沿いよりも海沿いのほうが高くなりがちです。同じ予算なら山沿いのほうが広い家を買える場合もあるでしょう。
一方で、買った後の資産価値を維持できるかどうかは街の発展性に左右される面も大きくなります。とくにこれからの地方圏や大都市郊外エリアにおける人口減が懸念される時代では、街全体の将来におけるニーズがどうなるのかを考えることも必要になってきます。
山沿い |
海沿い |
|
---|---|---|
趣味・スポーツ |
トレッキング、ハイキング、森林浴、カヌー、渓流釣りなど |
マリンスポーツ全般。船釣りなど |
生活エリア |
アップダウンが多く、日常の生活エリアは狭くなりがち |
比較的平坦で、日常の生活エリアも広くなる傾向 |
車の必要性 |
車がないと日常生活が不便なケースも |
交通網は比較的発達し、自転車による移動も簡単なケースが多い |
買い物など |
集客要因の少ないエリアは必要最小限の店舗に |
人が集まりやすいために、商業施設が充実することも |
住まいの対策 |
寒さ対策、雪対策、北風対策 |
暑さ対策、暴風対策、日常の風通し |
住宅価格 |
比較的安く、購入しやすい |
山沿いよりも土地代は高くなりがち |
いかがでしょうか?「山沿い」と「海沿い」あなたならどちらを選びますか?
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平野 雅之(不動産コンサルタント)
個人向け相談業務などを取り扱う不動産コンサルタント会社「リックスブレイン」代表。20年余りにわたり、東京都や神奈川県を中心に不動産媒介業務(売買)に携わる。取引実務に精通する専門家の立場から「現実に即した実践的な情報」を、消費者に分かりやすく解説している。