「売る」vs「貸す」どっちがおトク?
「売る」vs「貸す」どっちがおトク?
せっかくマンションを購入したのに、結婚や転勤、故郷へのUターンなど不測の事態が発生。そんなとき、マンションを貸しますか?売りますか?どちらにせよできればなるべく損はしたくないもの。売るか貸すかの決断をどのようなポイントで考えればよいのでしょうか?今回はこの点について解説したいと思います。
まず気になるのが、売った場合と貸した場合にかかる費用やメリットとデメリット。どんな違いがあるのでしょうか?簡単に表にまとめてみました。
-
売った場合
- ■ 得られる収入
- ・ 売却代金
- ■ かかる支出
- ・ 仲介手数料(売買代金の3%+6万円が上限)
- ・ 抵当権抹消等登記費用
- ・ 所得税(※譲渡益が出た場合)
- ・ 収入印紙
- ・ 修繕・クリーニング費用(必要に応じて)
- ・ 住宅ローン(残債のある場合)
-
貸した場合
- ■ 得られる収入
- ・ 賃料
- ・ 敷金・礼金
- ・ 更新料
- ■ かかる支出
- ・ 入居前の修繕・クリーニング費用(必要に応じて)
- ・ 故障トラブル対応、退去時修繕費
- ・ 仲介手数料(1カ月分)
- ・ 管理委託費(賃料の5%から10%程度)
- ・ 管理費・修繕費立金(※マンションの場合)
- ・ 固定資産税・都市計画税
- ・ 住宅ローン(残債のある場合)
-
- ○ メリット
- ・ 売却代金を得られる
- ・ 売却額を確定できるため、将来下落するリスクを回避できる
- ・ 不動産の維持管理などにかかる手間とお金が不要になる
- × デメリット
- ・ 資産を失う
- ・ 住宅ローンの残債務が多ければ、自己資金での充当が必要な場合がある
- ・ 地価上昇局面なら、売却代金を損する場合がある
-
- ○ メリット
- ・ 資産を持ち続けられる
- ・ 継続して家賃収入が得られる
- ・ ローン完済の場合には所有する不動産を担保に融資を受けることも可能
- × デメリット
- ・ 維持管理の手間とコストが発生する
- ・ 住宅ローンの借り換えが必要な場合がある
- ・ 空室が発生した場合、収入を得ることができない
- ・ 家賃収入に対して、確定申告をする義務が発生する
知っておきたいのが、「売ったほうがトクな立地」「貸したほうがトクな立地」があるということです。まず、エリアや立地の特性により、例えば外部からの流入が多く、利便性も高いため賃貸ニーズが盛況なエリアでは、賃貸にしても比較的安定して収入が見込める可能性が高まります。一方で、比較的人の出入りが少ないエリアや立地では、賃貸にするにはややリスクが高まります。これらは行政区ごとにデータ化されているので、参考にしてみると良いと思います。一般的に東京など大都市圏では出入りは多く、地方都市では少ない傾向にあるようです。
では、 出入りの多い大都市圏で、売却と賃貸のどっちがトクか判断するにはどうしたらいいのでしょうか?売却物件がマンションの場合に、ぜひ参考にしたいのが、マンションの資産価値をはかる「マンションPER」という数値です。
「マンションPER」とは、不動産の物件価格が何年分の賃料に相当するかを計算したものです。数字が小さいほうが、短い年数でモトが取れることになるので、収益力が高く、賃貸にしたほうがトクになる可能性が高いと言えます。マンションPERの数値だけでの判断は難しいものの、参考になるデータです。実際の数値については東京カンテイがランキングをホームページに掲載しているので、参考にしてみるといいでしょう。
マンションPER=マンション価格÷(月額賃料×12)
ちなみに、2008年のマンションPERのもっとも低い駅(収益性の高い駅)はJR山手線の品川駅でした。70m2の新築マンション価格の平均が5,349万円で、同じく70m2賃料は月額295,270円。この場合マンションPERは15.10となり、貸せば約15年で回収でき、そこから先は単純にマンションが生み出す利益ということになります。
注)試算は賃料の上下やローンを考慮しない場合
次に低いのが東京メトロ丸の内線の中野新橋駅で、70m2新築マンション価格の平均が5,722万円で、同じく70m2賃料は月額247,789円。この場合マンションPERは19.24となります。以下四谷三丁目20.38、大江戸線両国20.43、三田線神保町20.52、大江戸線勝どき20.59と続きます。比較的都心の交通利便性の良いエリアが中心となっています。
では一方でPERが高いのはどのようなエリアでしょうか?同じく2008年の高価格帯でのランキングを見てみましょう。
マンシ ョンPERのもっとも高い駅(収益性の低い駅)は六本木で、70m2の新築マンション価格の平均が20,626万円で、同じく70m2賃料は月額366,761円。マンションPERは46.87となり、貸しても賃料の回収には約47年かかるということになります。通常のローンはだいたい35年程度ですから、それをはるかに超える年数がかかってしまうことになります。同じく次に小田急線代々木八幡駅、東京メトロ銀座線赤坂見附駅、JR横須賀線鎌倉駅と続きます。これらは平均分譲価格が一億を超えるエリアで、良好な住宅地が多く、相対的に価格に比して賃料相場が低いといえます。このようなエリアでは、一般的に中古物件の価格も高く、貸すよりも売るほうがトクといえるでしょう。ただし、この数値はマンションの分譲状況などにより毎年変わるので、その時々の状況を常にウォッチしておきたいものです。なお、2009年のデータでは、“東高西低” の傾向で都心周辺部や城東エリアなどで高収益駅が微増しているようです。
賃貸にする場合、気にしたいのが所有不動産を貸した場合の「利回り」です。利回りとは、「購入費用(投資した額)に対して1年間でどのくらいの収入を得ることができるか」を割合で表したもので、下記のような式になります。
年間賃貸収入÷購入費用×100
例えば、3,000万円で購入して、家賃収入が月額10万円とすると、年間収入は120万円、この場合の利回りは120万円÷3,000万円×100=4%となります。
ちなみに、利回りの考え方には表利回りと実質利回りの2つがあります。上記の計算はあくまで表利回り。リスク回避のためには実質利回りで判断したいところです。なお、不動産広告に掲載されている利回りは表利回りであることが多いようです。
この実質利回りとは、年間総賃貸収入から物件の運用コスト(委託費、仲介手数料、管理費、修繕積立金、固定資産税、火災保険料、家賃保証料など)を差し引いた年間純収入で考えます。
実質利回り=(年間賃貸収入−年間支出)÷購入費用×100
先の計算にこれを当てはめると、例えば委託費や固定資産税などの運用コストが50万円だったとすると、(120−50)万円÷3,000万円×100=2.3%となります。
この2.3%をどう判断するかですが、一見定期預金などの利率に比べるといいようにもみえます。ところが、家賃収入は空室リスクや、物件の下落リスクなどもあり、金融商品との単純比較は難しいのが実状です。これらを考え合わせても実質利回りで6%〜8%、理想は10%をキープしたいところです。
実際にサイトなどを参考に、自分の所有物件がいくらで貸せるかサンプルを多く集めて算出したうえで、上記に当てはめてみて判断材料としてみましょう。
あまりに利回りが低く収益性が見込めない場合には、売却も合わせて検討したいところですが、いくらで売却できるかはどうやって算出すればいいのでしょうか?
ひとつには、住宅サイトなどで自分の周辺物件がどのくらいで出ているかザックリ相場を見極めてみましょう。正確に出してみたければ仲介会社に実際に査定をお願いするのも手です。その場合はできれば2〜3社にお願いしてみましょう。
これまでそれぞれの特徴を挙げてきましたが、皆さんは比べてみていかがでしたでしょうか?次回は、─では今の時代はどういった判断をしたら良いか─を、昨今のニュースも交えながらご説明したいと思います。
-
千葉 由里 (不動産・住生活ジャーナリスト)
住宅やオフィスビルの企画開発・設計管理、販売、管理設計業務など7年あまりにわたる不動産全般にかかる業務を経て、住宅情報誌の編集に携わる。
住宅総合サイトの編集長を経て、売り手、買い手、両方の立場という独自の視点から、不動産の最新トレンドをもとに消費者に役立つ情報提供を行っている。
All About「家の買い替え・売却」ガイド
宅地建物取引主任者
検索履歴
- OCN不動産について